とりあえず新年一発目のアニメ感想。

 先日旅行の帰りに、飛行機内の小型テレビで見たもの。それゆえに画面とか音とか、決してベストコンディションで見たわけではないので、採点するのはどうなのかなという気もするのですが……。


打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?



物語:2.0/作画:3.0/声優:1.5/音楽:2.5/キャラ:2.0/計:11.0/お薦め度:D


 新房昭之総監督×シャフトの劇場アニメ。原作は岩井俊二が監督・脚本を手掛け、95年に放送された同タイトルの単発テレビドラマで私は未見。

 中学生の島田典道(菅田将暉)が、同級生のヒロインの及川なずな(広瀬すず)を助けるべく、タイムリープを繰り返しながら奮闘する、ひと夏の青春アニメです。
「君の名は。」をヒットさせた川村元気プロデューサーということで、自ら二匹目のどじょうを狙いに行った感もある本作ですが、正直内容は微妙でした。
(まあ、私は未だに観てないんですけど、「君の名は。」。この間録画したと思ったら、なんか「秒速5センチメートル」が入ってたんですよ。番組タイトルが「君の名は地上波初放送直前記念、秒速5センチメートル」みたいな感じで、番組表だとその前半のとこしか見えなかったんですよ。紛らわしい!)

 ストーリーは非常にシンプル。
 母親の再婚に伴う引っ越しに反発し、家出を試みるなずなと「駆け落ち」することになった典道が、2人の逃避行が失敗に終わるたびに、なずなの持っていた不思議な球の力で過去に戻ってやり直す……の繰り返し。
 それは良いのだけど、さすがにあまりに内容がシンプル過ぎるような。
 なずなと母親の関係とか、なずなと典道、そして彼の友人の祐介の三角関係とか、もう少し掘り下げて欲しかったかなと。

 そうした部分は、もっとタイムリープを重ねる過程で色々と描かれていくのかと思っていたのですが、わりと唐突に、特に問題は解決しないまま物語は終わりに突入してしまいます。
 それもあってか、ラストの最後のタイムリープへ向かうシーンも、派手で力の入った幻想的な場面になっているわりには、カタルシスに欠けた印象です。
 もっともなずなと母親の葛藤は、女としての母に直面した際に娘はどう向き合うのかという、ちゃんと描こうとしたらそちらを主題にしなければ収拾がつかない問題で、踏み込むのはなかなか難しかったかもしれませんが。

 このあたりは劇場アニメという限られた時間では、なかなかあれもこれもというわけにもいかないのかとも思うのですが、そのわりに、なずなのファンタジックな歌唱シーンとか必要性があまり感じられなかったのだよな(アニメならではの見せ場を無理矢理作ろうとした?)。
 ついでに、たまに入るギャグっぽい描写も滑っていた印象です。

 
 主役の2人を演じるのは、菅田将暉と広瀬すずという若手人気俳優コンビ。
 私は職業声優でない人が声優を担当することを否定しませんが(それが良い味になることも多いですし)、本作に関しては菅田将暉はともかく、広瀬すずは厳しいものがありました。

 なずなは、飄々としていてミステリアスで、小悪魔的なところもある掴みどころのないキャラクターである一方で、母親に反発する際には年相応に感情を露わにするといった複雑な内面をもったヒロインですが、それを演じるにあたって広瀬すずでは力不足の感は否めません。

 ただ、なずなの複雑さは、上に挙げた内面のうち前半部分にアニメ的なテイストが出ているとはいえ、中学生という少女から大人になりつつある年代ゆえの不安定さということでもあるでしょう。
 しかし、声優自体に不慣れな広瀬すずでは、そういった難しい年ごろの少女を演じるどころではなかったのかなと同情します。
 そんな中学生女子に比べると中学生男子は往々にして、同年代の女子よりもまだまだ精神的に未発達なもので、典道もやはり年相応な少年として、シンプルで真っ直ぐなキャラクターとなっています。
 そのあたりが、菅田将暉と広瀬すずの演技の出来の差として出たのかもしれません。

 ちなみに、なずなの母親を演じた松たか子は普通に巧かったです(エンドロールを見るまで、声優ではないと気付かなかった)。
 それだけに、やはり母親と娘の葛藤を掘り下げてみて欲しかった気はします。


 さて、アニメファンとしては、新房作品という点も気になるところですが、本作ではわりと新房色は抑えめだった印象を受けました。
 エキセントリックな色使いとか、やたら強調される陰影とか、文字を使った演出とか(これはそもそも最近あまりやってないのかな)、ほとんど無かったような。
 このあたり、川村プロデューサーということもあって、コアなアニメファン層ではなく一般受けを狙った結果なのだろうか?とちょっと邪推してみたり。

 ついでにこれも一般層向けだったからかどうかは知らないけど、普段の新房監督なら、もっとヒロインのなずなを艶っぽく描いたんじゃないかな?とか思ったりする。上述のように、少女から大人へと変わる過渡期にあるキャラクターですし。
 新房監督は女キャラの色っぽさを描くにあたって、口を強調することが多いと思っているのだけど、それもあまり無かった。

 もっとも、冒頭の水に沈んでいくキャラクターとか、画一的でない変わった教室とか、新房監督「らしさ」感じるところも勿論あったのですが。
 

 そういうわけで、一般層受けを狙った結果、色々と中途半端になってしまったアニメというのが総じて見た感想です。
 いっそのことテレビアニメとして、アニメファン向けに作っていたら、もっとヒットしたんじゃないか?とか思ってしまいます。もちろん主役には本職の声優を起用して。
 1クールあればもっと色々と物語も掘り下げられただろうし。新房監督×シャフトのネームバリューも力を発揮しただろうし。




※以下余談

・書き終わって気づいたのですが、本作の特徴とも言っても良い、非常に目を引くタイトルのわりに、打ち上げ花火云々について一度も触れられませんでした。
 でもこれは、打ち上げ花火云々の問題が、タイトルの存在感ほどにはストーリー上あまり機能していないためです。
 思うに、wikipediaにおける本作の原作であるドラマ版のあらすじ、

小学生の典道と祐介は仲の良い友達だが、実は2人とも同級生のなずなの事が好きだった。しかしなずなの両親が離婚し、彼女が母親に引き取られて2学期から転校することになっているとは、2人には知るよしもなかった。親に反発したなずなは、プールで競争する典道と祐介を見て、勝った方と駆け落ちしようとひそかに賭けをする。勝ったのは祐介か? 典道か? 勝負のあとから、異なる2つの物語が展開する。

を読むと、タイムリープものと言うよりもパラレルワールドものといった印象を受け、こちらでは打ち上げ花火の問題も機能していたのではないかと想像します。
 それに対してアニメ版では上述の通り、典道を完全に主役とした物語にしたために、打ち上げ花火のストーリー上の必要性が薄れてしまったのかなと。
 もっとも劇場アニメを作るにあたって、パラレルワールドものからタイムリープものにしたのは、正しい選択だと思いますが。

・飛行機内のテレビで見たものは英語字幕付きでした。で、作中の日本語オリジナルの台詞では、もしお前が賭けに勝ったら三浦先生のパンチラ写真を撮ってきてやる、みたいなのがあるのですが、英語字幕では単純に「三浦先生の写真」になってたんですよね。このあたり、性的な表現が英語圏では厳しいことの表れなんですかね。

・あと全く関係ないですが、この時他に機内で見た映画、「美しい星」と「はらはらなのか」はなかなか面白かったです(フライトが12時間あって、しかも昼間だったのでひたすら暇だったのよ)。どっちもヘンな映画だったけど、楽しい映画でした。
 リリー・フランキーのダメなオッサンぶりが良かったです。そして久々に役者やってる亀梨君見たけどやっぱカッコイイわとか、松井玲奈って演技上手いなとか。




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