いよいよ100回目の甲子園もクライマックス。決勝戦の予想です。
 なお前置きが無駄に無駄に長いので、結論だけ読みたい方は、読み飛ばして一気に下までスクロールすることを推奨します。

・第16日(8/21)

 金足農が、甲子園優勝に、初の東北勢の全国制覇という快挙に、あと一歩まで迫っている。

 春夏合わせて190回、103年もの長い年月の間に、東北勢は何度も全国制覇目前まで迫ってきた。

 最近なら3年前の、佐藤世那、平沢大河を擁した仙台育英。最終的に9回に力尽き10-6と敗れたが、8回までは押しているのはむしろ仙台育英の方だった(その時の観戦記)。

 なお仙台育英は、01年春の決勝では大崎雄太朗、横川史学を擁する常総学院に7-6で敗れ、89年夏には大越基を擁して吉岡雄二の帝京に挑むも、9回まで0-0の投手戦を演じながらも延長で敗退している。

 また、11年夏~12年春夏には、田村龍弘、北條史也を擁した光星学院が3季連続で決勝進出という快挙もあったが、日大三や大阪桐蔭に阻まれ準優勝に終わった。

 その他にも、今村猛の清峰に1-0で敗れた菊池雄星擁する花巻東(09年春)。
 大崎3兄弟の次兄・大二朗や坂克彦の常総学院に敗れたダルビッシュ擁する東北(03年夏)。
 桐蔭学園に1-0で敗れた磐城(71年夏)……と多くのチームが、決勝で涙を呑んできた。
(どうでも良いけど大崎兄弟は二度にわたって東北勢の悲願を阻んできたのだな)

 そうした東北勢の悲願達成まであと一歩、の最たるものが、伝説の69年夏の三沢vs松山商だろう。
 今更ここで書くまでもないが、この試合は三沢・太田幸司と松山商・井上明の投げ合いの末(「レジェンド始球式」のトリを務める2人でもある)、0-0で延長18回引き分け。再試合で松山商が4-2で勝利した。

 この引き分けた第1試合の延長15回裏、三沢は1死満塁というサヨナラの好機を作る。打席には九番の立花。井上はスクイズを警戒したボールが2球外れ、続く勝負の3球目も内角高めに外れてしまう。
 同点の延長15回裏、1死満塁、カウント3-0。もちろん1球でもボールになればサヨナラである。
 この瞬間こそが、東北勢が100年を超す高校野球の歴史で、最も優勝に近づいた場面だったのではないだろうか。

 余談だが、この試合は朝日新聞の連載「あの夏」で取り上げられた。
 その第1回は、松山に住む当時小学生だった記者が、この15回裏の場面をテレビで見ていたシーンの回想から始まる。

 もう46年も前のことなのに、くっきりと思い出せる。

 ぼくは愛媛・松山の郊外に住む小学1年生だった。夕方になると、凪(なぎ)で瀬戸内海からの風がやむ。ジリジリと暑い6畳の居間で、白黒テレビの画面を食い入るように見ていた。松山商(愛媛)と三沢(青森)が戦っている。

 得点は「0」の列が続く。三沢のエース太田の快速球に松山商の打線は黙りこくった。「松山商が負けるわけがない」。そう思っていたが、延長十五回裏、いても立ってもいられなくなった。1死満塁の大ピンチになった。

 ふと隣を見て驚いた。白いシャツとステテコ姿で寝そべって見ていた、ふだんは偉そうな父の、たばこを持つ右手が震え始めた。灰が落ちそうなほど、ぶるぶると。

 投手・井上はストライクが入らない。ノースリー。泣きそうな表情の井上を見て、我慢できなくなった。隣の台所に駆け込んでガラス戸を閉め、しゃがみ込んで目をつぶり、耳をふさいだ。1分か、2分か。こわごわガラス戸を開けた。「どうやった」と尋ねると、父は「点入っとらんぞ」みたいなことを言った。
(あの夏)松山商×三沢:1 終わらぬ「0」、列島くぎ付け

※小癪なことに、上述記事は今は有料会員限定記事になっている。私が読んだときは、無料会員でも読めた。その時にいつでも読めるようにとコピペして保存しておいて良かった。まあ「あの夏」シリーズは書籍化もしているようなので、気になる人はそちらを読むなり借りるなりするとよいと思う。

 私は「あの夏」は全てではないものの多くのシリーズ(この試合に限らず)を読んでいるが、その中でもこの部分が一番好きである。
 69年は私の生まれる20年近く前だし、この記者の顔も何も知らないし、当時の松山や日本の住宅がどんなものだったのかもドラマなどのイメージから想像するしかないが、それでもここで描かれた情景を、ありありと頭に思い浮かべることができるような気がする。
 記事には書いてもいないのに、けたたましくなく蝉の声とか、首を振って風を送る扇風機とかが、勝手に脳裏に浮かんでくるのだ。

 応援しているチームが負けそうになって思わず目をつぶりたくなる感覚は、野球ファンなら誰しもが共感できるものというのもある。
 加えて、甲子園だ。
 夏休みの居間。誰が見るとでもなくテレビでNHKが点いている。
 やがて緊迫したシーンがやってくる。ふと気づくと、それまでは特にテレビに目を向けることもなく、何か別のことをしていたはずの家族が、いつの間にか手を止めて、画面をじっと見つめている……。
 そんな光景は、誰しも経験したことがあるのではないだろうか? 

 日本の高校野球が、甲子園が、多くの問題を抱えているのは分かっている。その改革が、遅々として進んでいないことも。
 そして何より、その諸問題の淵源を突き詰めると、単なる高校生の部活の大会でしかないはずの「甲子園」という存在が、あまりに巨大化、神聖化され過ぎてしまったせいということに行き着くということも。

 しかし。それでも。
 上の記事で描かれたような「あの夏」の光景を思い浮かべる時、やっぱり甲子園って凄いな。素晴らしいな、日本の夏の原風景だなと。
 そう感じてしまうのである。




 さて、そんな甲子園における悲願の東北勢初制覇への挑戦権を、記念すべき100回大会でまた新たなチームが手にした。
 今大会トップクラスの投手・吉田輝星を擁した金足農である。

 記念すべき100回大会で、東北勢が初優勝をかけて決勝に登場するというのだけでも既に凄い。そもそも、今年の東北勢はあまり期待していなかったし……(ちなみに上述の15年夏の仙台育英も、これはこれで選手権大会100周年という大会であった)。

 しかもこの私学全盛、野球留学全盛の時代に、オール地元民、しかもほぼ9人で勝ち上がってきた公立校。

 加えて、第1回大会以来103年ぶりの決勝戦となる秋田県勢……。
 なおこの大会は、大会が始まったばかりということもあり、選考にも問題があったらしい。

 夏の甲子園の前身である「全国中等学校優勝野球大会」の第1回大会が大阪・豊中グラウンドで開催されると告知されたのは大正4年7月1日付の大阪朝日新聞の社告。8月18日の開幕までわずか50日足らずだった。

 今のような地方予選を行えず、ドタバタで代表校が決まった。例えば関東地区は、東京以外の全県の予選参加が不可能だったため、春の東京大会を制していた早実を代表校とした。北海道、信越、北陸は予選が行われずに、最初から出場権がなかった。

 全国大会の開催をいち早く知った秋田中は、県内の横手中(現・横手)と秋田農(現・大曲農)に声を掛け、他の東北各県には教えず、わずか3校で「東北予選」を実施。勝ち上がって東北代表となった。

 ドタバタだろうがなんだろうが決勝進出は決勝進出。「事実上」みたいなエクスキューズは馬鹿馬鹿しいと思うのだが、それはともかく、この大会で秋田中は延長13回を戦う接戦の末、京都二中に2x-1でサヨナラ負けしている。優勝は紙一重の差だったのだ。

 そしてこの高校野球黎明期にサラッと秋田中が優勝していたら、その後、「悲願の東北勢初優勝」とか「またも白河関越えならず」みたいな言葉も生まれることはなかった。
 上にいくつも挙げた東北勢の決勝戦での激闘も、幾度となくあと一歩で壁に阻まれた東北勢の歴史というような悲劇性は付与されることなく、それぞれが単に決勝戦の名勝負一つとして記憶されていっただろう。

 そんな第1回大会から103年経った第100回大会において、その時以来となる決勝の舞台に、秋田県勢が登場するのだ。あまりに出来過ぎている。


 しかも、そこに対するのは、金足農とはあらゆる面で対照的な、名門私学の強豪校、春夏連覇がかかった大阪桐蔭なのだ。
 その中心にいるのは、こちらも大会トップクラスの選手である根尾昴である。

 根尾は入学前から既にスーパー中学生として騒がれ、高校進学後は「ミレニアル世代」の先頭をひた走ってきたと言って良い選手だろう。

 初めての甲子園である2年生のセンバツで、いきなり胴上げ投手になった。
 続く夏は、3回戦で仙台育英に悲劇的なサヨナラ負け(その悲劇を生んだミスを犯してしまったのが、現主将の中川というのもドラマである)。
 3年になり、昨年の悔しさを晴らそうと臨んだセンバツで再び優勝。その時の優勝の瞬間のマウンドに立っていたのも、やはり根尾だった。

 そして最後の夏。準決勝では柿木が完投したため、決勝戦の先発は間違いなく根尾だろう。
 総力戦になるだろうから分からないとはいえ、もし完投勝利を挙げたなら、三度根尾が優勝のマウンドに立っていることになるのだ。

 そういう意味で根尾もまた、吉田と同じく主人公属性満載だ(どうでもいいが名前も昴と輝星で、主人公っぽい)。
 そんな両者が決勝のマウンドで相見える。それも何度も書くが記念すべき100回大会で。こんなことが本当に合って良いのかと、ただただ茫然とするばかりだ。




 さて無駄に長々と書いてしまったが予想である。

 いかに金足農の勢いが凄くとも、また大阪桐蔭が強いのは強いんだけど、スコア的にはそこまで強さを示し切れていなくとも(浦学戦はなんだったんだ)、冷静に考えて大阪桐蔭の優位は揺るがない。

 それどころか、いくら神がかり的な粘投を見せているとはいえ、吉田の疲労は今度こそ本当にピークだろう(出来ればこの大会の後、彼を代表には呼ばずに休ませてあげて欲しい)。下手したら、10年前の記念大会のような惨劇にはなってもおかしくはない。
 まあ吉田の体力、馬力は想像をはるかに超えて凄まじいので、それは避けられるかもしれないが……。

 少ないリードで終盤を迎えると、11年前のような雰囲気になるかもしれないが、大阪桐蔭は昨夏の仙台育英戦でも、球場全体が相手を応援するのを短い時間ながらも経験している。
 それに履正社戦、高岡商戦、そして済美戦と、リードを許す苦しい展開を跳ね除けるなど、強豪校が時折見せる脆さも感じない。

 そもそも、仮にフレッシュな状態である1回戦でぶつかったとしても、10回戦えば大阪桐蔭が9回は勝つくらいの戦力差があるはずなのだ(いかに吉田が好投手と言っても、だ)。


 ただ、これだけ劇的な筋書きの今大会。そのクライマックスだけに、10回のうちの1回が起きそうな気もしなくはないが……。
 それに100年以上勿体ぶってきた東北勢の初優勝。どうせ優勝するならこんな個性的なチームに、それも記念すべき100回大会で達成してもらうのが一番良いのでは?という思いもある。

 しかし、既に色々な意味で出来過ぎているのに、この上そんな出来過ぎが乗っかるだろうか?
 ここは異様な熱気にほだされず、冷静に、大阪桐蔭の勝ちと予想したい。

 もし、金足農が優勝するようなことになれば、これまで多くの野球人が口にし、その度に「 ( ´_ゝ`)フーン」みたいな顔で聞いていた「野球の神様」なんてものの存在を、信じるしかないなというところだ。


 いずれにせよ、緊迫した好ゲームでも、昨夏のような大差ゲームでも良いので、願わくば後味の悪いような試合だけにはならないことを祈りたい。

 また、たたでさえ決勝という大一番かつ、異常な注目を集めそうな一戦となり、審判団もプレッシャーが凄まじいことは想像に難くないが、どうかフェアに、冷静に試合に臨むこと、そして一昨夏のような誤審騒ぎを起こさないことも願いたいものである(あの誤審がなくとも作新が勝っていたとは思うが)。


金足農-大阪桐蔭……大阪桐蔭




【勝敗予想】 
30勝24敗
 1回戦:13勝11敗
 2回戦(初戦):2勝2敗
 2回戦(2戦目)10勝2敗 
 3回戦:3勝5敗
 準々決勝:1勝3敗
 準決勝・決勝:1勝1敗

【優勝予想】
◎木更津総合……3回戦敗退○○●
○龍谷大平安……3回戦敗退○○●
▲智弁和歌山……1回戦敗退●

【ベスト8予想】
A:愛工大名電……3回戦敗退○●(正解:報徳学園)
B:浦和学院……当たり○○
C:星稜……2回戦敗退○●(正解:済美)
D:大阪桐蔭……当たり○○○
E:智弁和歌山……1回戦敗退●(正解:近江)
F:横浜……3回戦敗退○○●(正解:金足農)
G:木更津総合……3回戦敗退○○●(正解:下関国際)
H:龍谷大平安……3回戦敗退○○●(正解:日大三)




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